「今夜はきっと帰れないから、明日ランチでもどう?」「明日のランチね。いいわ。電話してくれる?」 「あぁ・・。それじゃ・・」 タイを締めながら彼が私の頬に軽くキスをする。 夕べも遅かった。子供達はもうすでに学校へと出掛けていった後で彼は眠そうにシャワーを浴び、朝食をとり出掛けていった。 誰も居なくなった部屋に独りきりになる。無性に孤独感が襲って来る瞬間だ。何か別の事を考えよう。 そうだ!気晴らしにクリスマスのショッピングへと行って来よう。 彩子は家の掃除を早めに終われせて外へ出た。 いつものように郵便受けを覗き込むと、何通かメールが来ていた。一通ずつ目を通す。 3通目辺りだっただろうか?昔よく見慣れた癖のある文字が目に入った。送り主は名前を見なくても解った。 「崇之?」 4年も音沙汰無しでいた昔の友人だった。 「何故今頃?」 少し戸惑いを隠せなくなって、封筒を開けることが出来なかった。 心臓が飛び出しそうな気持ちを抑え、手紙をバックの中へと押し込んだ。 一通りの買い物をモールで済ませ、カフェへと入った。 「エスプレッソ プリーズ」 熱いエスプレッソを手にして、外のテーブルへと着いた。頭の中はあの手紙の事で一杯で、とてもカフェの中の暖房の利いた所では冷静では居られなかったのだ。 エスプレッソに少し口をつけて、手紙を丁寧に開ける。 とてもスタンダードなクリスマスカード。 社交辞令の言葉の一番下にメールのアドレスが記されてあった。 その意味を私は十分に理解をしていた。今彼は私を必要としている。 私達の関係はいつもこうなのだ。お互い必要な時に信号を送り、それに答えて来た。何年もの間連絡さえ、何をしているかさえ解らない時もあった。 その度私の心は揺れている。彼はどうなんだろうか?同じ思いなのだろうか? かつて愛し合った彼との記憶は私の中で今でも残る。 少しの心の隙間を埋めるかのように私の中へ入ってくるこの迷いを受け止め、その度に私の心は穏やかでは無くなっていく。 9月に入ると夏が居ずらくなったかのように去っていく。ここ、ローレンスの気候はいつだって変わらないのだ。 彼と出逢った懐かしい風が今年もいつもと同じように吹いている。 とても冷ややかで、とても淋しく。 彼と過ごしたこの町に今は私だけ取り残され、すでに心の奥深くに閉じ込めた想いを、今また遠い記憶を手繰り寄せるかのようにひもを解く。 図書館でのあの一瞬の出逢いが、今でも私を苦しめ期待させ、そして切なくさせている。 「なんの本を探しているの?」 「・・・・・?」答えに詰まる。この人何故私が日本人である事を知っているのだろうか? 留学したてのアメリカで、右も左も解らずにいた。英語もたどたどしく、どうやって授業を受けるのだろうか?ここに来た意味も見出せずに弱気になっていた。 「ライティイング・・の本」ほとんど聞こえるか聞こえないか解らない程度に答えた。 「あぁ、その本、みんな探していたよ、もう無いみたいだ。予約、してくるといい。」 「ありがとう・・・」私はその場を去った。 これが最初の出逢いだった。
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